初恋

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 少年の髪はその肩につきそうなほどの長さで、つるりと真珠のように光り、陽光を吸い取って虹色の輪をその頭に作っていた。金粉の陽は髪の毛のカーテンに屈折し、黒のベロアの服を着た少年の肩に虹色の反射光を落としていた。  彼はその指先ひとつ動かさない。たまに上下するまぶたに密集したまつげは遠くに立つギャスパーでも目視できるほど長く、銀と青の粉塵を散らした金の瞳を守るのにふさわしい存在感だった。  彫像のように座ったままの少年王とギャスパーの間には距離がある。しかしギャスパーは、呆然と立ち尽くしたままそこから動けない。きっと今、ギャスパーの両目は二本の矢なのだ。圧倒的に美しい生き物に刺さったそれはギャスパーの足を固定してしまって、彼以外をこの目に映すことも許してくれない。 「陛下。ご機嫌麗しゅう」  アレグロの声が不自然に上ずる。ギャスパーより何歩も先に進んでいる彼女が、ふかふかの赤い床の上に静かに腰を落とし、両手でふわっとスカートを持ち上げた。  しかしギャスパーは一つ、違和感に気がついた。アレグロの体が小刻みに震えているのだ。まるで王を恐怖しているかのようなそれに、ギャスパーは一つ思い出した。     
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