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ふと、高校時代のことを思い出す。俺を敵視していた東雲。俺を見ているあの目は、本当は怯えていただけだったのかもしれない。
東雲の目には、俺が、晴海を東雲から奪う悪いやつに見えていたのだろう。
それが今は、東雲は俺をどこにもやりたくないとすがって、泣いている。
俺も泣いた。このまま、東雲の望みを叶えたかった。
東雲が俺を好きだと言ってくれた。
離れないで欲しいと、行かないで欲しいと泣いている。
でも俺は……俺は……――――。
「――――――――でも……行って、おいで」
息を飲み、顔を上げる。驚きで、涙が止まった。
至近距離に見えた東雲は、少しだけ笑おうとして失敗した顔をしていた。
その瞳に、苦渋が見えた。本当は、行かないでくれと言い続けたいのだと、その瞳が語っている。けれども東雲は、俺の意思を尊重してくれた。
俺を安心させようとして、笑おうとしてくれたんだと思う。
結局失敗して、東雲は泣いた。嗚咽をこぼし、終いにはワンワンと大声をあげて泣く。
泣き虫わんこめ。
俺もつられて、また泣いてしまう。
互いを好きだと言いながら、離れたくないと互いを抱きしめる。
それでも、俺たちはそれぞれの道を選び、歩き始めなければならない。
俺たちの未来はいつか必ず交じり合うと、信じながら。
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