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泣き笑いで、グチャグチャになった東雲の顔を服の袖でふいてやる。非常事態だったから、ポケットにエチケットグッズなど用意していなかったので仕方がない。
「おれも、好き。のむらが、好き。ずっと、好き。これからも、ずっとずっと、のむらが、好き」
東雲の言葉を俺は、不思議と穏やかな気持ちで聞いていた。俺と東雲の好きは、かなり意味が違うと思う。それでも、好きだと言われて嬉しくないわけがない。
「…………ありがとな」
たとえそれが友愛の意味でも、俺には十分だ。
「ドイツは、春先から二年の予定らしい。休みの時は、こっちに帰ってくるつもりだし。東雲が、俺と会ってくれるなら一番に東雲の顔を見に行く。年明けには、晴海も一時的ではあるが帰ってくるし。きっと、東雲も寂しくは…………」
「はるみは、のむらじゃない……」
「そうだ。俺は、晴海じゃない。いつまでも、代理じゃいられない」
本物の太陽は、もうすぐ帰ってくる。
あいつさえいれば、東雲はきっとすぐに元気になれる。
晴海の代理に過ぎない俺がいなくても、東雲には晴海さえいれば大丈夫だ。
俺はずっと、そう思い込んでいた。
「…………代理って、何?」
戸惑う東雲の声に、俺は自嘲の笑みを浮かべた。誰かと自分を比べて、卑屈になるのは嫌いだ。意味もないし、どう考えてもいい傾向だとは思えない。
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