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そうはわかっていても、俺が晴海の代理であって、彼には敵わないということも事実で。
「俺は、晴海の身代わりだろ?」
女々しい。こんなの晴海に対しても、なんだか後ろめたく感じる。東雲の顔を見るのが怖くて視線をそらしていた俺は、反応を示さない東雲が気になって、チラリと見た。
だが。俺は、その瞬間。己の発言を死ぬほど後悔したのだ。
泣いてグチャグチャになっていた東雲の顔が、ひどくショックを受けたように愕然としていた。血の気が引いた。俺はきっと、言ってはいけないことまで口にしてしまったのだ。
「ご、ごめッ……今のは違ッ」
「身代わりって何?」
「痛ッ」
両腕を東雲の手に掴まれる。涙で濡れた瞳が威嚇のような鋭さを帯びて、俺を貫く。
こんな東雲を見るのは初めてだ。今日は、見たことのない東雲をよく見られる日だ、なんて。場違いなことを考える。答えを戸惑う俺に、東雲は合点がいったかのように息を飲む。
だが彼はすぐに夜の静寂に声を叩きつけた。
「違う、違う。のむら、違う。勘違いしてる。はるみのこと、好きだった。それは、本当。でも、今はもっともっとのむらの方が好き。のむらのこと、おれは!」
「……東雲。勘違いしているのは、お前の方だよ」
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