ぼくのかわいい、よその犬

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 晴海よりも俺のことを好きだなんて、今お前が抱いている気持ちは間違いだ。  そんなわけがない。俺が、晴海を越えるなんて。  東雲の中で、一番の存在になれるだなんて。  そんなの、俺の思い上がりの妄想の中でしかありえないことだ。 「どうして、そんな、意地悪言うの?」 「…………お前は今、混乱してるんだ。俺が突然いなくなるから、そう思っているだけなんだ。俺がいなくなって寂しいと思ってくれてるのは本当だと思うけど、それを、好きだと勘違いしているだけなんだ」 「違う!」 「違わない。大事なことを、間違えたりしちゃダメなんだ」  本当を言えば、このまま勘違いさせたまま俺を好きになってもらえれば……なんて。悪魔の声が囁かないわけじゃない。俺を好きになってもらえれば、嬉しい。  だけどそれは、東雲が幸せになることに繋がらないのだ。 「…………違う。のむらは、おれにとって、ずっと、ずっと、大切な人だった。あの時から、ずっと」 「あの時?」  聞き返す。涙に濡れた黒い瞳が懸命に俺を見つめている。 「――――……放課後、のむらがおれを待ってくれるようになってから。パンを作って、おれを迎えてくれるようになってから。おれのピアノが綺麗だって言ってくれた時から、ずっと、ずっと」     
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