風鈴の町

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 風鈴はかつて魔除けでもあったそうだ。昔は弓を鳴らして悪霊を祓ったというし、鈴などの鳴り物にはそういう効果があると信じられていた。このあたりの神社では絵馬のかわりに、願掛けに風鈴を奉納するらしい。  軒先にたくさんの風鈴を吊るす町の姿は、一見風流で涼やかだけれど、なんとなくそれだけで言えないものもある。そういう風習も、この町の歴史を感じさせる。  風鈴の奏でる風の音に送られながら、ハンドタオルで汗を拭いつつようやく友人の実家らしき家に辿り着いた。ちらりと見える縁側には当たり前に風鈴が下がっている。  地図と表札の名前をチェックして、小さな門を開けた。小さな庭の飛び石を歩いていく。玄関を隠すように立てかけたれた葦簀(よしず)には朝顔が巻きついて、その陰には水の張った金盥が置かれていた。大きなスイカが冷やしてある。  映画で見たような風流と生活が、さりげなくそこにあった。やっぱり、友人をうらやましいと思う。  ガラスの引き戸が開け放してあって、玄関の中が見える。大きな靴箱の上にはガラスの金魚鉢が置かれていて、赤い金魚と黒い金魚が泳いでいた。 「かわいいでしょ」  家の奥から声をかけられて、顔を上げると、おばあさんが廊下に顔を出していた。私は慌てて頭を下げる。 「不躾にすみません」 「いいんよ、気にせんでね。それ、ゆいちゃんが去年のお祭りですくってきたんよ。かわいいでしょ」     
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