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風鈴の町
お盆の休暇には、友人の帰省にくっついて実家へお邪魔する予定だったのだが、友人が行けなくなってしまったので、私がひとりで行くことになった。
本当は、友人の実家の方に面識があるわけではなかったので、遠慮するつもりだった。けれど先方から是非にと丁寧な招待を受け、お言葉に甘えることにした。
友人は早くに両親を亡くしていて、祖父母に育てられたそうだ。二人もきっと孫の帰省を楽しみにしていただろうから、賑やかしにでもなればと思ったし、友人の育った場所に、以前から興味があった。
友人は、大学の同期だった。彼女は、山間の遠くの町から、進学のため単身都会へ出てきたのだった。
少し訛りのある柔らかい口調をからかう輩もいたが、彼女はいつもにこにことかわしていた。卒業後、地元へ帰るのかと寂しく思っていた私に、彼女は、戻らないよ、と困ったように笑ったものだった。
戻っても仕事がないから、こっちで働いて、お金を貯めるんだ、と言っていた。お金を貯めて、故郷でお店をしたいと。観光客が入りやすいような、田舎町にあうカフェをしたい、そこで民芸品を売ったりするんだ、と。あの町は、観光スポットとしてもっと売り出せると思うんだ。
本当は、戻っておじいちゃんとおばあちゃんと一緒に過ごしたかったりもするんだけどね、とも言っていたけれど。彼女はいつもその葛藤の中にあったようだった。
彼女の故郷は険しい山間にある。電車に揺られてその町に向かっていた私は、山の高さと、青々とした緑の鮮やかさに驚いた。そして窓の外に広がる田畑の広さに。
マンション育ちで、アスファルトの地面に慣れた私も、何故だかノスタルジーを感じる。広い空を大きな白い雲が流れる様子は、建物に遮られた空ばかり見ていた私に、解放感をもたらした。
照りつける陽は眩しく、汗が滴るけれど、むせ返る様な都会とは違う暑さだった。こんな土地で育った友人を少しうらやましく感じる。
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