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「ご褒美、だもんな。…しかしすごい匂いの香水だな。いや、ドーランやらなんやらが混ざりたくってんだな。香りだけで肌に悪そうだ。今夜は体までクレンジングが必要か?」
「この香りとの食事は極力遠慮したいだろう。君のあのにおいをたっぷり嗅ぎたいよ。三星の体のクレンジングは僕に任せて。さぁ、ホテルで汗を流そう」
今夜も期待に、腰は否応なく疼いた。
夕方からの公演だけだという中日に、ほんのすこし辺りを歩いた。
昼下がりの気怠さも、きりりとした空気にちょっと締まって、みな早足だった。
傷を隠した上にマスクと帽子を目深に被るサードを連れ、なるべく人気のない方を選んで進んでいたら、結局何もない広場のベンチに座るくらいしか出来ることはなかった。
サードは美術館に入ろうかと誘ってきたのだが、三星が断ったのだ。
「たくさん色が見えることが嫌になる時はない?」
「カラーの仕事は面白いし、この目がなかったら出来なかったことだからな。でも、美術館とか映画館は疲れる。疲れてる時は、自分の家の中を見てるだけでもそれが増すような気がする。だから物は黒ばっかりになる。黒は黒にしか見えないから」
飛行機が空を突っ切って、まるでその豪風がベンチまで届いてきたかのような勢いに足元の枯葉が舞い上がる。
まだらの葉を拾い、かさかさの中にグリーンを見て、サードに渡す。
「なに色? ゴールド?」
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