第1章 回転世界のホワイト

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とうとう乗る事になった初めての飛行機に、今度は恐怖と虚しさで緊張したのもよく覚えている。 見送りがてら共に空港へ来たのは叔父だけで、「頑張れよ」とよく分からない言葉をもらい、向こうから迎えに来てくれたレオという男とそんな飛行機に乗ったのだ。 空の上で、以前は三星の母もこれから行く所で生活していたのだと聞かされた。 何故かそれに、あのハイジャックの目的が飛行機だったのか母親だったのかの答えも聞いたようで、一気に達観した気分は落ち着き、到着が待ち遠しくなった。 連れられたシチリア島での生活は実際そう悪くもなく、検査協力というのがたまにどころかほぼ毎日で、一般の学校が終わり与えられている部屋に戻ったそこから多色相環やカラー配合などを学ばされる環境でも、あの親戚の家で息を詰めて生活するよりは良いと思えた。 日本のどこを見ても必要としてくれる場所はなかったが、そこでは間違いなく求められていたからだ。 異国の言葉も、周りにそれしかなければ案外すぐに覚えられ、母がよく口ずさんでいた歌がイタリア民謡だったと知った日は、消えかけていた思い出をまた拾えたような暖かい気分になった。 ふんだんな海の幸を使った赤や黄の鮮やかに美味しい食事を楽しみ、青い海で泳ぎ、海岸沿いの丘に調和するローマ時代の遺跡群を見る。世界はカラフルだった。 そんな全部が小さな不満など忘れさせ、良い毎日にしてくれた。 自分の身を請け負った団体が、研究機関でも何でもなく、スパイ組織と知ったのは十五の時。 父親は目に見えていたまま、普通の会社員。 いつも自分を待っていてくれる専業主婦だとばかり思っていた母親は、組織の元工作員。 施設の中で三星に与えられた部屋は、昔まだ独身だった母に与えられていた部屋だった。 その日は誕生日を祝ってもらい、嬉しさと楽しさ満杯で指についたケーキのクリームを舐めていると、突然コンパクトなデジタルカメラを渡された。 そこに写っている空間に調和する人間のカラーを考えろと言われ、よく分からないまま見たその写真には、国旗と上質なマホガニーのデスクに黒皮張りの重厚なソファーといった、明らかに一般の部屋とは違う雰囲気の空間が写っていた。
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