第1章 回転世界のホワイト

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だからこそ、重要な場所ほど人間の肌と、調和させるカラーが必要になる。   朝飯前とは言わないが、三星は傷を隠すのも得意だった。 魅力的に彩るのだって、貧相に枯れさせるのだって、他の人間では造りきれないものを生み出せる自信がある。 オリジナルのメイク法や空間における独自のカラー理論を説き出せるようになった頃、本部を出て自由な生活を選択する事も許されるようになった。 そして三星は、以前から何となく憧れのあった田舎町に住む事を決めた。 田舎といっても地下鉄も通り、静かなのにとても便利な街で、バスに乗ってもどこまでだって行ける。   こんな世界に身を置いて、気付けば二十七。この街に住んで早五年。 仕事の依頼は、いつも絵葉書。 元気かい、というような当たり障りのないメッセージに隠されたアナグラムを解いて、指示の場所まで資料データの入った特殊制御のSDカードを取りに行く。 更新された危険人物のデータ受け取りは、毎年七夕の日。 かつては非道なマッドサイエンティストとして裏社会で名を馳せた男が陽気な店主を気取るローマの小さなカフェへ取りに行く。 島を出てからは、仕事にもそのカフェの地下にあるシェルター兼研究室を使う事がほとんどで、店の裏にあるゴミ箱がそこに続く秘密階段の入口というのは気に入らないが、中はカフェと同じようにそこそこ洒落た空間なので、プロジェクトに集った仲間とつかの間だが茶を飲んで話せるのはやはり楽しみでもあった。 三星が住む街にも同じ組織の者は居るようだったが、そのカフェの地下以外では知った顔同士会っても視線を合わせることさえタブーだった。 公共交通機関で乗り合いになってもならないという細かいお達しの念の入りようは、組織の慎重さそのもの。 この仕事に置いて、親睦など育むに値しないものなのだ。 自分の仕事が済んだら、なるべく事が起きる場所から離れ、皆それぞれのアリバイ作りを開始する。 実行メンバーにはそれぞれ影武者が居て、様々な場所で行動は同時に進行されていく。 セキュリティソフトのコールセンターでうだつの上がらない契約社員として、「パスワードが入力できない」なんてユーザーのとぼけた質問に答えている奴が、国家の機密を簡単にハッキングできてしまう曲者だったりもするから、この世は本当に信用ならない。 そして、実行日から二週間後。
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