第1章 回転世界のホワイト

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三星が関わったプロジェクトの結果は、あの駅のトイレにマークで示される。 午前最後の清掃十一時。午後一番の清掃十四時。その三時間で確認しなければいけないのだ。 「信じられない…。君は、マジシャンかい? 僕の罪はどこに消えた?」 仕上がった顔に男はまた大袈裟に両手を開いて、食い入るように鏡を見ていた。 「イタリア男はなんでみんな、そういう身振り手振りつきの回りくどい言い方をすんだろうな。まるで歌舞伎だ。このメイクが出来るマジシャンがいたら連れて来い」 例えアルファでないとしても、特別な男だと、その事実だけは誰も否定できないだろうと思う。   この男がこの世に居るためには、やはり顔に傷くらい必要なのだと思わせる完成度。   彫り深い眉の奥から甘い眼差しを蕩かせる澄んだ瞳に、白を持つ人種らしく高い鼻から情熱で薄く腫れた艶の唇。そんな顔の額縁は、頬に沿って流れた少し長めの髪。 ブルー、ホワイト、レッド、ゴールド。 どこから見ても文句の付けようなく魅せられてしまうカラー配置だからこそ、実現できる人間は少ない。   ボスが見たらそれこそ喉から手を生やして欲しがるだろうなと、また男を値踏みしてしまう。   三星と同じ黒髪に黒い瞳のボスは、金髪碧眼をコレクションしているのだ。   生死は問わないようだが、やはりホルマリン漬けより血が通っている物の方が好ましいというのが口癖で、自分もアルファのくせに別格アルファへ強い憧れを持っている。   この男を見るまでは、ボスのコレクション達も中々のものだと思っていたのだが、新しいのを連れて来てはまたすぐ次を探すボスは、なるほどこんなのが欲しいんだろうなと頷かせた。 思わずその稀有へ触れてしまいたくなった手を三星は叱る様に振って諫め、カラフルになっている甲を拭う。 人気の俳優と言われても、へぇそうなのかと言うしかないが、傷を埋めたその顔は、身震いする達成感をくれる常習性の強い麻薬のように目の離せないものだった。 「あぁ、僕のエンジェル。こっちに来て感謝のキスをさせてくれないかい」   口を開けば呆れてやるのも面倒なほどの男だと、うっかり見惚れた顔からさっさと片付けに入る。 「誰がエンジェルだよ、クソ野郎。寝ぼけてないでさっさと着替えろ。もう十三時半だぞ」   そろそろ見に行かないと結末を知れないままになってしまう。
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