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背後から腕に守るボックスごと抱き込まれ、エナメルのベルトは本来の用途以外に活躍する事なく、使った頭も無駄にごろごろと階段を転げ落ちる。
勢いよく階段の一番下まで戻されて、やっと止まった。
「てめぇ、この野郎、ふざけんな!」
着地と同時に体の下にいる男の胸倉を掴んで、思わず日本語で怒鳴り散らしてしまう。
周りが何事かと好奇の目を流して「ジャパニーズ」と囁くのが耳に届き、舌打ちをして男の上から降りると、体のどこも痛くない事にまた苛立った。
「あぁ、本当に大変な日だ」
くせのない明瞭な発音がそう返され、風島三星(かぜしまさんせい)の怒りはとうとう沸点に達した。
「こっちの台詞だ! あんたが人の肩に勝手に手を置いて、勝手にぶつかって勝手に下敷きになった。俺はなにも悪くない」
床に腰を落として俯いたままの男にしっかり分かるように、今度は出来うる限りの正確な発音を駆使したイタリア語で返してやった。
男は深くかぶった帽子をさらに深く被り直し、ずれたマスクを引き上げる。
隠される寸前に三星はその男の頬にある大きな傷を目敏く見つけ、その傷から該当しそうな人物を記憶に探した。
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