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特にブロンドヘアの方は、幼少期にその称号を受けられても、青年期まで維持できるものは稀だった。
大体はゴールドが黄ばむかブラウンが伸びて、通常のアルファに落ち着く。
「君が必要なんだ。僕は今とても緊迫した状態で、君の手を借りたいと思っている。君が大事に抱えているそれはメイクボックスだろう? 中身もそうなら良いんだけど。僕に急いでメイクをしてくれないかな。大丈夫。過剰な期待はしていないからね。目的地に到着してから適切な人間を探して頼むにしても、ベースくらいは出来上がっている方が良いと思っている程度さ」
三星のこめかみはひくひくと疼いて、逆立つ不快にリズムを合わせた。
それは、目の前の男へ背を見せるのをシャクにさせる。
「流石にここじゃ、その頬のでっかい傷を隠してやれるメイクは出来ないが、ちゃんとアイテムを広げられる清潔な場所に案内してくれるなら話は別だ。変質者みたいな恰好でも水色の目がキュートなあんたの顔を、どこまで綺麗にしてやれるか試してやってもいいぞ」
まるで旋回中の鳥ほど両手を広げた男のブルーアイは見開かれた。
「良かった! メイクの子に突然逃げられてしまって途方に暮れて窓を見ていたら、メイクボックスを持った君が駅に入って行くのが見えたんだ。まるで運命だね。つまり、僕の部屋はこの駅を出てすぐだ。さぁ、行こう」
馴れ馴れしく肩に手を回しメイクボックスを持とうとする男の尻を蹴り、さっさと歩けと先に歩かせる。
男はまるでエスコートでもするように、「そこの段差に気を付けてね」などまだ下らないことを言いながら歩いて行く。
こっちの男は、女にだけじゃなく男にも平気でフェミニストぶるのだ。
東洋人は人種的に骨格が華奢なのもあってか、ただ単にそういうお国柄なのか、所構わずこぞってそういう事をしてくる男達は気色悪いばかりに多かった。
だがそんなお遊びに付き合ってやれる程、気持ちは軟弱じゃない。
三星は先を歩く背に小石を蹴った。
前を行った男は、駅前の集合住宅のエントランスドアを開け、誘い込む手振りで待つ。
「ちゃんとついて入る。いちいち止まってこっち見んな」
「この街は古い建物ばかりだからドアも重たい。君は荷物を持っている。僕は手ぶら。ドアくらい開けさせてくれても良いだろう。ここの三階なんだ」
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