第1章 回転世界のホワイト

7/15
前へ
/100ページ
次へ
現れた螺旋階段を三星が踏みしめるようにのろく上がるのを、急いでいるはずの男はせかす事無く待った。   グリーンを基調に整えられた部屋は、少し剥げかけた薄いブルーの壁とよくマッチして、なかなか良い調和の部屋だった。 「問題はこのローテーブルがウッドって点だけだな」   ついそう呟くと、男は面白そうに話の続きを聞きたがる。 「このラグもソファーも窓辺の鉢植えのカラーもこの空間を整えているが、ローテーブルのカラーがその調和を乱してる。これをアクセントにしたいならこの複雑なウッドより率直にレッドを選択すべきだ」 「じゃあ、明日にでもそうしよう。僕もそのテーブルはあまり気に入っていなかった。素晴らしい意見をありがとう。パウダールームはこっちなんだ。来てくれるかい」   どこか引っかかる違和感はつまり不信感だろうと、男が部屋を区切るドアを開け中に踏み込んだのを確認してから慎重に後へ続く。 その部屋も白を基調に品よく整えられ、ホットタオルのスチーマーや、洗髪もできそうな洗面台まであった。   壁の時計が十二時半を指しているのを見て、次の駅トイレ清掃までの残り時間を知る。 「俺は十四時までに行かなきゃならない所がある。あんたのタイムリミットは?」 「奇遇だね。僕も十四時までにはここを出たいと思っているから、お互い使えるのは後一時間半弱というところみたいだよ」   ここまで来て、男はやっと帽子とマスクを取り、その素顔を晒した。 ひゅうっと、思わず口笛を吹いて茶化したくなるほどの輝くブロンドヘアーに、ついまたそのカラーを分析してしまう。 鏡の前に座らせ、髪の根元を見てもその混じりけのないゴールドにメラニンカラーはなかった。 「マジかよ…。染めてるわけじゃないってことはやっぱり…、お前、別格アルファなんだな。だがこの辺じゃここまでの金髪碧眼はそう居ないはずだ。出身は」 「ミラノだよ。アルファかどうかなんてどうでもいいことさ。もう二十七にもなるのにいつまでもこの頭なのはすこし恥ずかしくてね。僕としてはブラウンくらいにしたいんだけど、周りがなかなかそうさせてくれないんだ」   誇るべき別格カラーを染めたいと言う嫌味なあほの遺伝子も、北の方なら有り得るかとどこか渋々の気持ちに納得し、時間にそう余裕がないことを思い出した。 男の顔に掛かる髪を軽く留めて、一呼吸集中する。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

513人が本棚に入れています
本棚に追加