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それは、男なりの気遣いだった。物欲がそこまでない相手に形の残る何かをあげてもきっと喜ばないだろう。それならむしろ、形には何も残らないが「何もしない」時間を与えよう。そういう贅沢な時間こそ、今の相手に必要なんだと。
そう思って、ホテルを予約していた。
「待って、それいつから?」
「いつって。今日だけど」
「今日!?」
「な、なんだよ」
そんなことを思っていたのに、相手の口から飛び出したのは驚愕と、それから混乱のまじる声だった。一体何があったのだろう。男は驚いた。
「なんで相談してくれなかったのよ!」
「だってこれ一応サプライズだし!」
「そうだけど! もう、どうしてくれるの。私もちゃんと考えてたのよ。ほら」」
そう言ってベッドサイドの引き出しから相手が取り出したのは、二枚のチケットだった。よく見ると近くにある温泉の入浴券。どうやらそこに併設の宿泊施設も使える特別なものらしい。
最近できたらしくて、いつか行ってみたいと話をしていたけれど。まさか、そんな。
「最近忙しいのはそっちも同じでしょう? だからせっかくだし、と思って」
「あー……まじか」
「どうする?」
「どうしような」
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