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「そういえば、まだ名前を訊いていなかったね」
思い出したようにそう言って、青年がロッテを振り返った。ロッテがこくりとうなずくと、青年は足を止め、改めてロッテに向き直った。
「私はユリウス。きみは?」
「ロッテです」
「ロッテ……?」
ユリウスは少し驚いたようだった。けれどもすぐに元どおりの穏やかな表情になって、「良い名前だね」とロッテの名前を褒めた。
ロッテの名前は森の魔女リーゼロッテが付けてくれたものだ。赤ん坊のころ森に捨てられていたロッテのことを、彼女ははじめ「ちびロッテ」と呼んでいたけれど、ロッテが「ちびは嫌だ」と訴えているうちに今の名前で呼ばれるようになった。
正直言って好きな名前ではなかったけれど、ユリウスが褒めてくれるならきっと良い名前なのだろう。なんとなくそう考えて、ロッテはちょっぴりこの名前が好きになった。
あれからユリウスは陽の当たる場所を選びながら森の中を進んでいた。単純に明るいほうが危険を察知しやすいというのも理由のひとつではあるようだけれど、それよりも大きな理由としては、魔獣に薄暗い場所を好む習性があるからだろう。
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