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「王子自らいらっしゃるなんて、いったい何の御用件かしら」
ユリウスに向かいの席に座るよう目線で示し、金属製のガーデンチェアに腰を下ろすと、リーゼロッテは背もたれに身を預け、すらりと伸びた白い脚を優雅に組んだ。王族に対して横柄にも感じられる身の振る舞いは、王と対等の立場である契約の魔女ゆえに許されるものだ。
わずかに頭を下げて椅子に掛けると、ユリウスは真剣な面持ちで口を開いた。
「突然押し掛けて申し訳ございません。けれど、偉大なる森の魔女のちからがどうしても必要なのです。話を聞いていただけますか」
「よろしくてよ」
鈴の音に似た心地良い声でそう言って、リーゼロッテは艶のある紅色の唇で弧を描く。ユリウスはほんの少し躊躇う素振りをみせて、それからおもむろに話を切り出した。
「リーゼロッテ様はフィオラントの各地で疫病が流行っていることをご存知でしょうか」
「ええ、存じておりますわ。なんでも治療の難しい重い病だとか」
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