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「実は今、父は疫病を患い、床に臥せっております。宮廷の医師達が日夜治療に明け暮れているものの、未だ成果は出ておりません。止むを得ず、私が父に代わって国政を執っておりますが、未熟者ゆえ疫病対策まで手が回らない状況です。父を……この国を守るために、どうか王都に出向き、貴女様の偉大なちからをお貸しください」
ユリウスの声は低く落ち着いていたけれど、橄欖石の瞳には強い意思のちからが宿っていた。熱意のこもったその横顔を目にしていると胸がきゅんと締め付けられるようで、ロッテは胸元で手を結び、リーゼロッテが承諾するのを今か今かと待ち望んだ。
けれども、リーゼロッテは首を縦には振らなかった。紫水晶の瞳を物憂げに伏せて、彼女は小首を傾げ、嘲るようにユリウスに告げた。
「ユリウス王子、それは無理な願いというものですわ。ご存知のとおり、私はこの森の結界を維持しなければならぬゆえ、森を離れることができません」
「……え? お師匠様がいなくても結界は維持でき――」
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