第1話 王子様との出会い④

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 旅支度を理由にユリウスをその場に待たせると、リーゼロッテはロッテを広間から連れ出して、廊下の片隅に乱雑に置かれた荷物の中から大きめの旅行鞄を手渡した。  ロッテの部屋は屋敷の二階にある。こじんまりとした部屋ではあるけれど、日中は大きめの窓から陽の光があふれて開放的だ。リーゼロッテに手渡された旅行鞄を床に置くと、ロッテは小さく溜め息を吐き、ぐるりと部屋のなかを見渡した。  綺麗に片付いた部屋の隅には机と椅子とベッドが収まり良く配置されており、物置棚や本棚にはリーゼロッテが使わなくなった書物や道具の数々が並べられている。ベッドの下には箱型の衣装ケースが三つ並べて置いてあった。  しばらくのあいだ、ロッテは部屋の真ん中で黙って立ち尽くした。  物心ついてから、ロッテは一度もファナの森を出たことがなかった。だから、旅支度と言っても何が必要なのか、全く思いつきもしなかった。筆記用具と薬草学をまとめたノート、調薬器具一式と、それから最後にお気に入りの木彫りの櫛を手に取って、着替えと一緒に旅行鞄に詰め込んだ。そうこうしているうちに階段をのぼる靴音が聞こえて、ノック音ひとつなく部屋の扉が開け放たれた。
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