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ロッテの部屋の入り口で、リーゼロッテは腰に手を当てて片脚に重心をのせて立ち、旅行鞄の前にしゃがみ込んだロッテを満足そうに見下ろした。それからずかずかと部屋のなかを横切って、漆黒のドレスのスリットから覗く長い脚を隠そうともせずに、ベッドの上に腰を下ろした。
「準備は出来たか?」
膝の上に片肘をつき、リーゼロッテが意地悪に笑う。ロッテはぷうっと頬を膨らませると、ちょっぴり不機嫌に愚痴をこぼした。
「ひどいですお師匠様。そうやって、厄介ごとは全部わたしに押し付けるんだから」
「ははは、悪い悪い。でもお前、私の許しなく結界を出ただろう? こうなるのも必然だと思わないか?」
先程の、広間での口調とは打って変わった砕けた物言いで、リーゼロッテはけらけらと笑った。
ユリウスの前では猫を被っていたけれど、これが本来のリーゼロッテだ。妖艶な美女の姿をしているが、がさつでぐうたらでものぐさで、ロッテを召使いのようにこき使う。けれども魔法の腕は超が付くほど一流で、国外にまでその名を轟かせている、フィオラント王国の偉大なる森の魔女だ。
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