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それまでの不満がひと息に吹き飛んで、ロッテは嬉しくなって学術書をぎゅっと胸に抱きしめた。
実のところ、リーゼロッテはつい先日、この学術書を現代語に訳し終えて不要になっただけだったのだが、そこは敢えて伏せておき、恩を売るのがリーゼロッテのやり方だ。ロッテはいつも、こうして知らないうちにまんまとリーゼロッテに乗せられてしまうのだ。
「わたし頑張ります! お師匠様の名前に恥じないように、この仕事をやり遂げてみせます!」
学術書を片腕で抱きしめたまま、ロッテはもう片方の手で拳をぎゅっと握りしめた。そのとき、学術書からひらりと紙切れが舞い落ちて、ロッテはきょとんと目を丸くして、床にしゃがみこみ、紙切れを拾い上げた。紙切れには整然とした文字がびっしりと記されていた。
「なんですかこれ……」
「リーゼロッテ特製ブレンドの媚薬のレシピだ」
「媚薬……?」
「あのクソ真面目な王子に使ってやれ。玉の輿も夢じゃないぞ」
楽しそうにそう言って、リーゼロッテはにこりと微笑んだ。
要するに、既成事実を作って責任を取らせてしまえと言いたいらしい。
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