第1話 王子様との出会い⑤

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「今生のお別れというわけではありませんから」  顔を上げ、ロッテはにっこりと笑ってみせた。釣られるように微笑んで、ユリウスが蔓薔薇のアーチに目を向ける。緑と赤で彩られたトンネルの向こう側は、まばゆい光で満ちあふれていた。 「本当に、リーゼロッテ様は偉大な方だ」  ユリウスの口からつぶやきが洩れる。ロッテは目を見開いて、蔓薔薇に覆われたトンネルが次々と木の根を掘り起こし、深い森を切り開いてゆくその光景に魅入られた。  魔獣の巣食う危険な森を抜ける必要すらない。このトンネルは今、直接外の世界に繋がっている。リーゼロッテの魔法のちからは、森のかたちすら自在に作り変えてしまうのだ。  偉大なる森の魔女――わがままで意地悪な、ちょっぴり優しいロッテのお師匠様。  悪戯っぽく笑うリーゼロッテの姿を思い浮かべて、ロッテは大きく一歩を踏み出した。  トンネルを覆う蔓薔薇のつぼみが次々に花開いていく。その光景はまるで、ロッテの輝かしい未来を祝福しているかのようだった。
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