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急に話を振られてしまい、ロッテは恐る恐る顔を上げた。心臓がとくんと小さく跳ねて、喉がごくりと音をたてる。
黒曜石の瞳に刺すような視線を向けられて、ロッテはぎゅっと旅行鞄を抱き締めると、しどろもどろに口を開いた。
「えっと……ロッテです。お師匠様――リーゼロッテはファナの森を離れられなくて……その代わりに、わたしがユリウス様のちからになるように、と言われまして……」
「要するに、お前はリーゼロッテ様ではなく、ただのロッテというわけだな」
吐き捨てるように騎士が言った。その威圧的な物言いには侮蔑も含まれているようで、ロッテは少しムッとして騎士の顔を睨みつけた。けれど、さらに鋭く騎士に睨み返されて、結局ロッテは負け犬のように怯えて顔を伏せてしまった。
「ゲオルグ、そんな顔をしないでくれ。彼女が怖がってる」
「残念ですが、殿下もご存じのとおり、この顔は生まれつきです。それで、ただのロッテとやら、お前は馬に乗れるんだろうな」
またしても威圧的な物言いで問われ、ロッテはうつむいたままふるふると首を振った。
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