第2話 ロッテ、王宮に上がる①

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 初めて森の外に出たロッテにとって、窓の外を流れる景色はどれもこれも新鮮で、すべてがきらきらと輝いて見えた。  これまでのロッテには、森の外の世界は額縁に飾られた風景画のようなもので、図鑑に描かれたイラストから想像してみるだけの、手の届かないものだった。リーゼロッテが水鏡のまじないを使い、ときどき村のお祭りや王都の様子を水面(みなも)に映して見せてくれたけれど、それらはどこか現実味が欠けていて、夢の世界の出来事のように思えていた。  あのときユリウスに出会わなければ、ロッテはあのちっぽけな森で、ちっぽけな世界で、一生を終えていたに違いない。  揺れる馬車に身を委ねると、ロッテは静かに眼を伏せた。  しばらくすると、不意に馬車の揺れが小さくなった。砂利道だった街道が石畳みの道へと変わったのだ。街道の先に石造りの橋が見えたので、ロッテは弾かれるように席を立ち、窓から身を乗り出した。  アーチ状の橋の下を、透きとおる川の水がさらさらと流れてゆく。涼しげに揺れる水面の奥で、川魚の鱗がきらきらと輝いていた。
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