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ロッテは少し驚いた。
確かに人影はないけれど、窓の外に広がるのどかな景色に危険が潜んでいるとはとても思えない。
「ごく稀にだけど、はぐれ魔獣が出ることもあるからね。行商に出る者は必ず護衛を雇っているし。それに、きみは女の子だから」
そう言うと、ユリウスは傍に立て掛けていた剣の柄を指先でそっと撫でた。
馬車はがたごとと音を立てて、石畳みの街道を進み続けた。やがて道の向こうに高い城壁が現れると、ロッテはなんとなくユリウスの言葉の意味を理解した。
町を囲む城壁には幾つもの古い傷痕が刻まれていて、それはきっと、ずっと昔の度重なる魔獣の襲撃によって刻まれたものに違いなかった。けれど、フィオラントの人々は今も、魔獣の脅威に怯えているのかもしれない。
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