第1話 王子様との出会い①

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「お怪我はありませんか?」  橄欖石の瞳をまっすぐにロッテに向けて、青年は落ち着いた低い声で言った。あたたかくて優しい言葉に安堵したせいか、気が付けばロッテは大粒の涙を溢して泣きだしていた。破れたブラウスの胸元を掻き集め、ロッテはこくこくと頷いた。 「……そう、間に合って良かった」  青年の整った顔に穏やかな微笑みが浮かぶ。  いつの間にか、あたりには黄金(きん)色の陽の光が雨のように降り注いでいた。まばゆい光を背にマントをたなびかせる青年は、まるで歴史書に描かれていたフィオラントの英雄王のようで、ロッテはただただ呆然と青年を見上げることしか出来なかった。 「魔獣は鼻が利く。ここに留まるのは危険だ。森の外まで送るから、歩けるようならすぐにでも出発しよう」  素早く周囲を見渡してそう言うと、青年は立ち竦むロッテの手を取った。突然の出来事に、心臓がとくんと大きく胸を打つ。躊躇いがちに青年の手を握り返したロッテの頬は、ほんのりと熱をもっていた。
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