プロローグ

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「ご主人様を癒して差し上げます」 ポップな字体で描かれた立て看板。 その傍にあるドアを開けると、その中に居るのは黒いメイド服の上に白いエプロンを纏った天使のような2人のメイド。 「おかえりなさいませ。ご主人様!」 ご主人様を迎え入れるのは、小鳥のさえずりのような声。 メイドの手料理を一口噛み締めると、日頃の疲れを消し去る癒しの香りが広がる。 中世ヨーロッパを思わせる洒落た陶器から注がれるコーヒーは、日頃の喧騒をすべて消し去る清流の音を奏でる。 そう。ドアを開けるとそこには、メイドカフェと呼ばれる現実世界から隔離された癒しの空間が広がっている…… ……広がっている……はずなのだが、12月24日午後6時58分。大阪市のメイドカフェ「メイドインにっぽんばし」はそんな優雅な雰囲気とは全く無縁の異様な熱気と興奮に包まれていた。 今日の夜はここ、メイドインにっぽんばしでクリスマスイベントが開かれる。 お給仕するメイドはセレナとマコト。人気ナンバーワンを分け合う看板メイドの2人だ。 セレナはキリッとした目もとが光るスレンダーな美形。元々趣味がコスプレだったことがお給仕を始めた決め手であった。最大の武器は得意のビブラートを利かせた歌声。「メイドインにっぽんばし」にはカラオケ機器も設置されており、セレナのお給仕の時にはリクエストが殺到する。 一方マコトは柔和な表情でご主人様達に癒しを与えるいわゆる「可愛い系」だ。彼女の武器はダンス。マコトが踊れば場所がどこであろうとそこはステージに早変わりする。
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