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『いいですか、皇坊っちゃん。
タイムリミットは大気圏から出て12時間。
今回は大分急ごしらえしたんで、それ以上の地球外滞在は無理っす』
まどろみから目覚める瞬間、耳に響いたのは幼馴染が最後に残した忠告だった。
『確かに科学技術が発達して、宇宙に気軽に行ける時代になった。
一昔前みたいに大仰なスーツもいらない。
こんな小さな機材を1つ仕込んでいるだけで大気圏外での行動が可能になった。
……それでも、いまだ宇宙は、人間の体には厳しい環境なんすよ。
何度も宇宙旅行を経験されていらっしゃる皇坊っちゃんには釈迦に説法な気がしないでもないですがね』
瞳を開けば、ランプが明滅する基盤が目に入る。
その光に横顔を照らされた女性が、目覚めた僕に気付いて微かに笑いかけてきた。
「カシラギ様。
準備が整いました。
どうぞご出立ください」
「ありがとう、キヨ」
大伴幸彦(おおとも・ゆきひこ)がオペレーター件助手としてこの船に乗せた女性は、優雅な手さばきでパネルを操作すると入口のハッチを開いた。
ゆっくり月面にタラップが降りると、微かな動きに砂が舞い上がる。
大気がない世界に音はない。
僕は幸彦から渡された生命維持装置がきちんと腰のベルトに付いていることを確認してから月面に降り立った。
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