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雅代は結婚しても仕事を続けてきた。今春は一人娘も嫁ぎ充実した日々の中で、いつもの師走を迎え、今年は夫と二人きりのイブの夜だから仕事は早めに切り上げて久し振りにシャンパンで乾杯しなくてはと年甲斐も無くウキウキしながら混雑するデパ地下でオードブルやカリフォルニアロールを買い、夫が好きなバタークリームの特注のクリスマスケーキを受け取り、息を切らせながら帰宅して一ヶ月も前から飾り付けた少し控え目なリースの掛かっているドアを開けた。夫はまだ帰っていなくて今日は彼はオフ日だから、きっと私へのプレゼントを買うのに時間がかかっているのかぐらいにしか思っていなかった。ダイニングテーブルの上には新しいキャンドルと可愛いリボンのプレゼントの箱とクリスマスカードが添えられていた。もう帰宅して寝室で疲れて眠り込んでしまったのだと、起こしてはいけないと、シャンパングラスやお皿、フォークにナイフ、お箸もセッティングし、テレビの夜のニュースも始まる時間になり、そろそろ起こさなくてはと寝室のドアを開け、壁の灯りのスイッチに触れた。夫は居なかった。外出してるんだとスマホ連絡したが電波が入っていないのアナウンスが流れても、まだ気づかなかった。何処をウロついてるのか娘にも電話したが、「パパ来てないわよ。パチンコでもしてるんじゃないの。」そうだろうかと思いながらも、まださほど心配はしていなかった。テレビのニュースを観ながら、「交通事故なら警察から電話がくるだろうし。」とブチブチ言いながら、手はカードを開いていた。「君へのプレゼントだよ。でも驚かないでリボンを解いて開けて見てから手紙を読んで。」と書いてあった。思わず喜び、その時に一瞬ドキッとしたのは嬉しくてではなかったのかもしれない。何かを感じて、とにかく開けていた。箱の中には離婚届が入っていた。冗談ばっかりで、他に何も入っていないと不服そうな顔で手紙を読んだ。「君へのクリスマスプレゼントだよ。僕は君に自由を贈りたい。」とだけ書いてあり、ラインもメールも返信が届かない夫は本気なのだろうか。寝室のクローゼットには夫の服がそのままかかってあり、荷物を持ち出した形跡もなくジョークのつもりのイブの夜に仕事の疲れもありソファで横になったまま一人の夜はいつの間にか更けていき、冗談ではなかったのかと朝になってもまだ信じられずにクリスマスには昨夜の残り物を一人で食べた。
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