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ギター、ベース、ドラムの完璧な演奏に、ボーカルの圧倒的な歌唱力。
凌空は、さっきまであんなに怒っていたとは思えない程、伸びやかで艶やかな歌声で歌っている。素人の優羽にも、様々なテクニックを駆使しているのが分かる。そして時々、聴いている人の心の奥底にまで染み渡る感傷は、凌空の体全体から発されていると感じる。
そのうえ、凌空は勿論だが、他のメンバーは楽器を弾いているのに、手元は殆ど見ず、ずっとゲストを見ている。
完璧な彼らを見つめるに相応しい、華やかな人たちを。
もし、凌空と幼馴染じゃなかったら。
もしあの時、凌空が私を庇わなかったら。
私はきっと今、心が震える程に感動していただろう。
凌空が遠くに行ってしまって寂しいのだろうか。
凌空を取り巻く環境に、見つめる幾つもの美しい横顔に、嫉妬しているんだろうか。
近すぎるから、純粋に憧れることもできない。他の女の子達のように、付き合いたいと軽く口に出すこともできない。
もう、ずっと前から分かっていたことだ。
今日を限りに、この恋に幕を下ろそうと、優羽は演奏を最後まで聴くことなく、扉を開けた。
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