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12月25日のクリスマス。優海は憂鬱な気分で目を覚ます。
今日は優海が産まれてちょうど、20回目、両親が亡くなってちょうど10回目のクリスマス。
優海の母親は生まれつき体が弱く、ずっと入退院を繰り返していた。優海が産まれてからは特に悪化し、彼女を産んでからはずっと入院していた。
母は海が好きな人だった。病室には海の写真が何枚か飾ってあり、優海が父と見舞いに行けばその写真を眺めるか、海や魚の写真集を見ているかしていた。
優海が来ると母はいつも“ヴィーナスの櫛”と呼ばれる貝で髪を梳かしてくれた。
優海の名前をつけたのも母で、「海のように深く広い心で優しい子になって欲しい」という意味が込められている。
「いつかみんなで海に行こうね」と口癖の様に言っていた。
優海も父も、それを楽しみにしていた。
だが10年前のクリスマス、優海の誕生日ケーキを買って病院へ行くと母の容態は急変し、そのまま亡くなった。
父は優海を抱きしめながら大声で泣いた。
「優海、いこう……いこうか……」
父の言葉に幼い優海は頷いた。母のために海に行くと思ったから。
しかし……。
確かに海は見えるものの、崖がちらほら見えるような幼い優海でも危険だとわかる道で父は車を走らせた。途中、海へ行ける道を無視して。
「お父さん、海行ける道過ぎちゃったよ?」
「ありがとう、優海。いこう、一緒にいこう」
父はそう言って片手で優海を抱き寄せると、崖に向かって思いっきりアクセルを踏んだ。
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