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車は崖から落ち、父は亡くなった。
優海は奇跡的に生き残ったが、左腕にひどい火傷を負った。
生き残った優海は母の姉夫婦に引き取られた。
不妊治療をしていたふたりは優海を歓迎したがどこか遠慮してしまい、未だに溝があるままだ。
姉夫婦が優海を引き取った翌年、ついに命を宿した。更に翌年、可愛い男の子が産まれた。
「優海はこれからお姉ちゃんよ」
義母はそう言ってくれたが優海はその言葉を素直に受け入れられないでいた。
子供が産まれても姉夫婦は本当の親の様に接してくれていたが、時にそれが優海を苦しめる事もあった。
そんな時、優海はいつも壊れた腕時計を握りしめていた。父の形見だ。
母の形見と呼べるものはない。ヴィーナスの櫛も写真も、写真集もすべて母の棺に入れてしまったから。
「天国でもお母さんが海を見れるように」
幼い優海の精一杯の手向けだった。
だから優海は壊れた腕時計に父を見て、母を想った。
「ヴィーナスの櫛、取っておくんだったな……。お母さん……」
優海は左腕のケロイドを見ながらぽつりとつぶやく。
「優海ー、起きてるの?こっちいらっしゃーい!」
1階から義母の呼ぶ声が聞こえる。
「今行くー!」
優海は急いで着替えて1階のリビングに行った。
「優海、こっちこっち」
義母は何故か嬉しそうにテレビの前にあるソファーへ手招く。
ソファーに座るとテーブルの上に見慣れない物があった。
ビデオデッキとタイトルも書いてないビデオテープ。そして白い小箱。
「どうしたの?これ」
「いいからいいから。はい、これ持って。まだ開けちゃダメだからね?」
義母は白い小箱を優海に持たせる。
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