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帰りは、奏くんが駅まで見送りに来てくれた。
「お前、大丈夫か」
「大丈夫。親には『図書館に行く』って書き置きして来た」
「そうか」
普段勉強してこなかったことを、こんな形で後悔するとは思わなかった。きっと、嘘はバレているだろう。
「今日は奏くんに会えてよかったよ。だって相手の人も」
人差し指を唇の前に持ってくるのは、静かにして の合図。これ以上は言わないで の合図。
「蛍には好きな人、いる?」
「え?」
唐突にそう問われて、すぐに思い浮かべられる人はまだいなかった。
首を傾げると、奏くんは優しく微笑んでくれた。
「じゃあ今度、いいの送ってやるよ」
「ほんとに?」
「ほんとに」
またね!と無邪気に手を振る自分に、奏くんは手を振り返してくれた。
1ヶ月後、母親から荷物を手渡された。
ピンクの包装紙に、真っ赤なリボン。
自分宛に来ているものの、差出人の欄は空白だった。
「気味悪いわね」
それだけ言って母は興味をなくしたのか、ほんとうに気味が悪かったのか、台所に引っ込んだ。
リボンを解いて包み紙を破ると、立方体の箱が出てきた。
唾を飲んで蓋をあけると、
「は?」
中身はリボンで結ばれたブロッコリーだった。
「あらあら、サラダにしちゃう?」
上機嫌で声をかけてきた母にブロッコリーを手渡すと、箱の中に封筒が入っていたことに気づく。
それを制服のポケットに入れて、自室に戻る。
封筒の中身は、一枚の写真だった。みんな楽しそうに笑っていた。真ん中に座る自分に肩を回していたのは、右側に座る奏くんだった。
裏には、油性ペンで書き込まれていた。
「蛍へ
蛍にこの言葉を送ります。
『Love the life you live. Live the life you love』
奏 P.S.ちゃんと勉強しろよ!」
慌ててほぼまっさらな辞書に手を伸ばす。
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