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……それより少し前。
場所は魔導士の自室。
「おお、カトリーヌや、大きくなったね。お爺ちゃんだよ」
水晶玉には、年端もいかぬ可愛らしい娘が映し出されていた。
魔導士の孫、カトリーヌである。
偉大なる魔導士も、孫の前ではただのお爺ちゃんであった。
「お爺ちゃんきらーい」
頬を緩める魔導士に向けて、カトリーヌは舌を出して見せた。
「か、カトリーヌ? どうしたというのだ?」
狼狽する魔導士。かつて、巨大な竜を前にした時にも見せなかった姿だ。
「今年の誕生日、カトリーヌに会いに来てくれなかったもん。きらーい」
「おおカトリーヌ、許しておくれ。あの日は体調が悪くて、転移の魔法が使えなかったのじゃ」
「知らないもーん。きらいだもーん」
「そんな事を言わないでおくれ。そうだ、来年の誕生日には何でも欲しいものをあげよう。それに、必ず会いに行く。約束じゃ」
「えー、どうしよっかなー」
「カトリーヌ、後生じゃ。許しておくれ」
王ですらひれ伏すと言われる魔導士は、水晶玉の前で臆面もなく頭を下げて見せた。
「んー、じゃあ許してあげる。その代わり、ほんとに欲しいものくれる?」
こくん、と首を傾げる娘の姿に、だらしなく緩む祖父の頬。
「おうおう、もちろんじゃ。何が欲しい? お人形さんかな? それともお洋服かな?」
「カトリーヌねぇ」
「うむうむ」
「世界が欲しいのー」
「うむうむ。世界じゃな。よし、おじいちゃんが必ずや手に入れてプレゼントしよう」
「ほんとにいいの? 世界だよ?」
「おー、もちろんじゃとも。お爺ちゃんは約束を守るぞ」
「わぁい。お爺ちゃん大好きー」
「ワシも大好きじゃよ、カトリーヌ。来年を楽しみにしておいておくれ……」
水晶玉から孫の愛しい顔が消え、相好を崩した好々爺の顔も引き締まる。
その瞳に燃え上がる決意の炎。
「一年……か」
長くはない。
「だが……やらねばならぬ」
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