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世界をその手に
ある高名な魔導士がいた。
世間の煩わしい物事を嫌い、辺境の地に二人の弟子とひっそり暮らしていた。
ある日、いつものように弟子達が食事の支度をしていた時だった。
普段であれば食事の支度ができるまで部屋にいるはずの師が二人の前にふらりと現れた。
「師匠?」
「いかがなさいました?」
話しかけた二人はすぐに気づいた。
師の眼差しがあまりに真剣なのだ。
普段彼らが見ている好々爺の容姿では無く、自らに目的を課し研究に打ち込んでいるときの目だった。
「お前達」
重々しい口調。
二人は自然と畏まった姿勢になった。
食事の支度など、もはや後回しだ。
「ワシは世界をこの手にせねばならぬ」
驚いた。
世俗に塗れるを良しとせず、そこから離れる生き方を選んだ老人が、今さら何を言いだすのか。
だが、二人は笑わなかった。
魔導士の真剣な眼差しが、彼らに笑うことを許さなかったのだ。
「突然、どうされたのですか?」
「一体何が?」
弟子の言葉に、魔導士は重々しく一つ頷いた。
「やるべき事に気付いてしまったのだ。いや、やらねばならぬ事、かな。お前達、ワシについてくるか?」
弟子達は黙った。
すぐに答えなど出せるはずがない。
あまりに重すぎる決断を二人は迫られたのだ。
「良い。明日まで待つ。ついて行けぬと思う者は、ここから出て行け」
そう言って、魔導士は自室へ戻って行った。
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