黄金色の欠片

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***** 「予定日は七月十七日だから、その通りに行けば家族全員夏生まれだね」 夜を迎えてますます込み合う駅の中を歩きながら、自分の腕を取る真央は楽しげに笑う。 十歳下の彼女は、元は職場の部下だった。 自分が中学生だったあの頃は、真央はまだ四、五歳だった。 そう思って眺めると、二十五歳にしても幼い顔がいっそう無邪気に見える。 こいつは強いて人形に例えるなら、笑顔のこけしだ。 彫りは浅いが険が無く、いつも柔らかに笑っている風な表情だ。 自分が今、胸の奥に抱えている痛みとは切り離された場所に相手がいるのだと思うと、少し物足らない一方で、どこか安堵も覚える。 何だかんだ言って真央の方が住谷より十歳も若いし、気立てだって明るい。 客観的に見て、少女時代の延長の住谷より今の真央の方が妻としてはずっと良い相手に思えた。 大体、自分と同い年だから住谷ももう三十五歳。 はっきり言えば、おばさんだ。 今は二人も子供がいるらしいから、あるいは今日逢った掛川より老け込んでいるかもしれない。白人の血が入っているなら尚更だ。 ああいう気難しい、陰鬱な面の強い女性と一緒になったところで、長い目で見ればこちらにとって苦痛の方が多かったに違いない。 美人だとか何とか言ったところで、そんなものはパートナーとして長く一緒に暮らす上での魅力にはなり得ない。 三十五歳にもなれば、そうした現実も透けて見えるようになるのだ。
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