黄金色の欠片

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「久し振り」 彼女がそう告げると、その隣に立っていた長身の男もにっこりと親しげに微笑む。 黒髪だが、薄茶の瞳と彫り深い顔立ちで白人と知れた。 この香水じみた甘ったるい匂いは彼女ではなく男から来ているのだろうか。 「婚約者なの」 あれ、この人は四、五年前にカナダ人と結婚したと噂で聞いたけど、その相手とは離婚して別な相手と婚約したのか? ためらう内にも赤毛の彼女は笑って言葉を継ぐ。 「この前、ナディアにも逢ったよ」 数年振りに耳にした名なのに、胸の奥がざわめくのを感じた。 「二人目の子が生まれたばかりだって」 「そうなんだ」 あの子も結婚したとは人づてに聞いていた。 「じゃ、また」 飽くまで笑顔だけを残して、甘やかな香りに包まれた二人が駅の構内に去っていく。 「またね」 もう逢うことはないだろう。 そう思いつつ、こちらも笑顔を作って手を振る。 ふわりと風が吹き付けて、緋色の葉が一枚、コートの肩に纏いついた。
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