第1章

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 どうしても優の意図がわからない。優から見たら私は凄くおばさんのはず。そんな私にこんな事をして楽しいのだろうか。 「___どうも思わない。貴方は子供だから。でも、”大人”としていけない事はいけないと叱る」  そう、相手は高校生だから。ドキドキするはず無いし、この鼓動は怒りの所為なの。布団を握り締める手は汗ばんでいたけれど、優にはきっと気付かれないはず。 「そう。じゃあ、俺は反省も兼ねてベランダで読書しよっかな。___襲わないから、安心して寝てよ。俺らの仲でしょ?」  優は窓をすり抜ける時だけ一瞬薄くなり、ベランダで再び姿を現した。改めてこの人は死んでいるのだと思った。  ”俺らの仲”とは一体何を指すのだろうか。この奇妙な共同生活の相手は恋人でなければ友達でもない。ましてや生きている人間でもない。私と優の間に何があるのだと言うのだろうか。 「___なんだよ、全く相手にされてねえじゃん」  心の中で呟いたはずなのに言葉に出ていた。慌てて室内を確認すると、電気は消されて物音一つしない。小さくため息を吐いてから、ベランダの手すりに頬杖を突いた。見上げる夜空は何も変わらない。  生きていても死んでいても変わらない月は、酷く寂しげだった。それはきっと、見る人によって感じ方は違うのだろう。今日仕事で成功した人が見る月はきっと輝いていて、明日への勇気をくれるのだろう。俺から見た月は、孤独だった。沢山の星に囲まれていたって、それは近い様で遠く遠くの隣人だ。___寂しい。  明日も明後日も渚さんと過ごせる、この時間が永遠に続けばいい。  そんな事が許されない事くらいわかっている。俺の願いが叶う時に全てが終わり、始まる。全て俺が望んだ事で、誓った事。  どうか明日も渚さんの笑顔がたくさん見られますように。
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