第2章

2/16
前へ
/98ページ
次へ
「今日はハンバーグ?」 「そう。休みの日くらい自炊しなきゃね」  今日は休暇だったので、昼間は大掃除をした。久しぶりに家具をどかして掃除が出来たのは、優という男手があってこそだった。タンスの後ろから埃だらけのショーツが出てきた事には焦ったけれど、それ以外は大きなハプニングが起こる事も無く進んだ。それでも時間がかかり、終わったのは十五時を回った頃だった。お昼は簡単におにぎりで済ませたから、夜は豪勢にと買い物に出掛けた。  ペタペタとお肉を丸める渚の手を、優は子供の様な目で見つめていた。まるで小学生と料理をしている気分になって笑いが込み上げる。フライパンでいい音を鳴らして完成に近づいていくハンバーグに、ぐるぐると小さくお腹が鳴った。 「ねえ、渚さん。俺の分も作って」 「え?た、食べれるの?」 「うん。渚さんの手料理食べれるなんて、レアな事ないよ」  このいい香りが優の鼻に届いているのかはわからないけれど、頷いて快諾した。人の為に腕を振るえるのはとても嬉しい事だった。隣でミニトマト嫌いと駄々をこねる優を無視して、健康のために野菜も添えるとなかなかの出来栄えに見えた。 「「いただきまーす」」  肉汁が染み出る焼き加減は一層食欲を誘う。はふはふと湯気を払いながら口に運ぶと、贅沢して買った国産牛の旨みが口いっぱいに広がる。すかさずかき込む白米との相性は抜群だった。  視線を前方に移すと、優がキコキコとハンバーグを切っていた。口に入れて咀嚼するのを見届けると、優の顔が嬉しそうにこちらを向いた。 「美味しい!」 「え?本当?味がするの?」 「あははは。しないよ。それでも、渚さんの手料理を渚さんと一緒に食べられるなんて、美味しいに決まってる」 「ふふふ。何それ。おままごとしてるみたい」 「いいんだ、それでも。こうして二人で食べられている事が幸せなんだ」  優の口からぽろぽろと零れ落ちる素直な言葉に、渚は胸を熱くしていた。優の笑顔は純粋で眩しい。汚れてしまった私とは正反対。こんなに楽しくいられるのは、他の誰でもない優のおかげだった。 ピンポーン  ご飯を食べ終わって談笑しているときだった。時刻は二十時を過ぎた頃で、宅配便が届く予定などなかった。いつもの癖でドアスコープを覗かずに扉を開けた事が間違いだった。 「え・・・、どうしてここに?」
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加