第2章

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「なんで電話に出ない?」  扉を開けた瞬間から詰め寄るように入ってくる男は、スーツを着て髪を綺麗にセットしていた。目は怒りに燃えて、今にも渚を噛み殺さんばかりに見ている。 「せ、いじさん・・・」 「何故出ないのか聞いているんだ。__なんだ、お前新しい男でも出来たのか?」 「へ?」 「そこに並んだ食器はなんだ?二人分あるじゃないか」  咎める様に言う誠二に渚は足がすくんで動けなくなっていた。勝手に部屋に上がり込んだ誠二の目の前には、テーブルの前に座る優がいる。 __やばい。  そう思った瞬間に誠二が優の身体を通り抜けてソファに座った。そうか、優は他の人には見えない。ドクドクと速まる鼓動は不快感しかない。 「隠れてるのか?__おい、出て来いよ。良い事聞かせてやるぜ」  優は俯いたまま動かない。どうしたらいいか、渚はパニックになっていた。___やめて、何も言わないで。 「こいつはな、俺の家庭を壊したんだ。可哀想だと思って一緒にいてやったのに、とんだ糞女だったよ。妊娠しても無いくせに、妊娠したからどうにかしろって騒ぎ立ててよ。おかげで俺は離婚だよ。り・こ・ん。お前もこんな奴の為に時間を使ってないで、さっさと他の女の所に行ったほうがいいぜ。ははっ」  呼吸が止まりそう。優を見れない。こんな私の事を、軽蔑しているはず。もう、優に名前を呼んでもらう事も「そんなわけないだろ」 「あ?なんか言ったか?いい加減隠れてないで出て来いよ」 「俺はずっとここに居ただろ」  優がゆっくりと立ち上がった瞬間に、誠二の視線が優を捉えた。突然姿を現した優に誠二は目を見開いて言葉を詰まらせていた。 「つまらない話。本当に時間の無駄」  優の言葉が渚の心に深く突き刺さる。やっぱり・・・ 「渚さんがそんな事するはずないだろ。てめえの作り話に無駄な時間使わせんじゃねえよ。汚い足で上がってくんな。帰れ」  年上相手に物怖じせずに言い放った優はこちらに向かってくる。なんの力に操られているのかわからないが、誠二は胸ぐらを掴まれている様に不自然に服が引っ張られて玄関に向かっている。状況についていけずに呆然とその光景を渚は見ていた。 「今後一切渚に関わるな。じゃねぇと、お前の人生全てに呪いをかけて明日にでも死にたいと思わせてやるよ」
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