115人が本棚に入れています
本棚に追加
昼過ぎに起きる私はダメな大人だろうか。居酒屋は深夜三時に閉まり、お客様が残っていなければ四時には帰路につくことが出来る。帰り着いたらメイクを落として寝る。その繰り返しだ。きっと私が三十歳になる頃には、同級生達よりもずっと老けているのだろう。
「おはよう」
「うん・・・おはよう」
「大丈夫?次の休みはいつ?」
「明日ぁ。それに今日は学生バイトがたくさん出勤できるから、私は日付変わる前には帰れるんだよーん」
「おー!じゃあ、今日は飲み明かそう。付き合う」
嬉しそうにガッツポーズする優は自分の事の様に喜んでいる。なんと微笑ましい朝、・・・いや、昼だろうか。そうだ、早くお風呂入って準備しなきゃ。
「俺もお酒飲みたい」
「未成年はだめ」
「えー。そしたら俺は永遠に飲めないじゃん」
「そう、来世では必死に二十歳まで生きる事ね」
「渚さん、ひでーっ」
ははっと笑いながら準備に取り掛かる。目覚めは悪いはずなのに、優に起こされると気分が上がる。その理由は深くは考えないようにする。間違いが起こらない様に、超えてはいけないラインをしっかりとわきまえておかなければ。
「おかえり、渚さん」
「ふふっ、何言ってんの。一緒に帰ってきたじゃない」
「だめ。ちゃんとただいまって言えよ。折角俺が先回りしてドアを開けたんだから」
「___あんた、そのへんの小学生の女の子よりもおままごとが好きね」
「ちぇっ、夢の無い人だ」
「そう、大人は現実を見てるのよ」
しかめっ面をして見せる優は見慣れていた。それなのに、何度見ても可愛いと思ってしまう私は末期かもしれない。これは、弟に向ける様な、そんな感情。そう、きっとそう。
「じゃあ、お酒を飲んで記憶を無くす前に俺から一言」
「___無くさないけど・・・何?」
ゆっくりと回転する優はモデルのようだった。
「何よ」
「やっぱり気付いてないか。渚さんって、本当に鈍感。まあ、確かに中間服じゃわかりづらいか」
「___何を言いたいのかわからないんだけど。制服がどうかしたの?」
唇を尖らせて唸っていた優がこちらを見る。恨めしそうに。
「俺の制服に見覚え無い?」
優が着ているのは、出会った時と変わらない黒のズボンとカッターシャツ。特徴は二の腕の辺りに白い糸で縫われた校章。
最初のコメントを投稿しよう!