第2章

6/16
前へ
/98ページ
次へ
 昼過ぎに起きる私はダメな大人だろうか。居酒屋は深夜三時に閉まり、お客様が残っていなければ四時には帰路につくことが出来る。帰り着いたらメイクを落として寝る。その繰り返しだ。きっと私が三十歳になる頃には、同級生達よりもずっと老けているのだろう。 「おはよう」 「うん・・・おはよう」 「大丈夫?次の休みはいつ?」 「明日ぁ。それに今日は学生バイトがたくさん出勤できるから、私は日付変わる前には帰れるんだよーん」 「おー!じゃあ、今日は飲み明かそう。付き合う」  嬉しそうにガッツポーズする優は自分の事の様に喜んでいる。なんと微笑ましい朝、・・・いや、昼だろうか。そうだ、早くお風呂入って準備しなきゃ。 「俺もお酒飲みたい」 「未成年はだめ」 「えー。そしたら俺は永遠に飲めないじゃん」 「そう、来世では必死に二十歳まで生きる事ね」 「渚さん、ひでーっ」  ははっと笑いながら準備に取り掛かる。目覚めは悪いはずなのに、優に起こされると気分が上がる。その理由は深くは考えないようにする。間違いが起こらない様に、超えてはいけないラインをしっかりとわきまえておかなければ。 「おかえり、渚さん」 「ふふっ、何言ってんの。一緒に帰ってきたじゃない」 「だめ。ちゃんとただいまって言えよ。折角俺が先回りしてドアを開けたんだから」 「___あんた、そのへんの小学生の女の子よりもおままごとが好きね」 「ちぇっ、夢の無い人だ」 「そう、大人は現実を見てるのよ」  しかめっ面をして見せる優は見慣れていた。それなのに、何度見ても可愛いと思ってしまう私は末期かもしれない。これは、弟に向ける様な、そんな感情。そう、きっとそう。 「じゃあ、お酒を飲んで記憶を無くす前に俺から一言」 「___無くさないけど・・・何?」  ゆっくりと回転する優はモデルのようだった。 「何よ」 「やっぱり気付いてないか。渚さんって、本当に鈍感。まあ、確かに中間服じゃわかりづらいか」 「___何を言いたいのかわからないんだけど。制服がどうかしたの?」  唇を尖らせて唸っていた優がこちらを見る。恨めしそうに。 「俺の制服に見覚え無い?」  優が着ているのは、出会った時と変わらない黒のズボンとカッターシャツ。特徴は二の腕の辺りに白い糸で縫われた校章。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加