第2章

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 ざわざわと身体中を虫が這いまわるような不快感、否、不安感。見覚えのある校章は忘れたいもの。思い出したくないと思えば思う程、湧いてくるあの時の記憶。 「ゆ、う・・・貴方いったい?」 「話せないよ」 「・・・」  首を横に振る優も辛そうな顔をするから、高まる鼓動と震えを抑えるためにこぶしを握り締めた。なんの因果があるというのだ。無かった事にしたかったのに。なんで優の手がかりがそこにあるの・・・。 「__西高に通っていたの?」  こちらを見据える優の表情はYESだった。大きく息を吸う。吐き出す息にこの不安な気持ちを乗せて。  無言のまま冷蔵庫に向かい缶酎ハイを手にした。振り返る事はせずにぷっしゅっと爽快な音を上げた缶を勢いよく傾ける。早くアルコールが体中に回るように。大きく息を吸って、再び缶を傾ける。 「いけないよ。そんな飲み方したら、だめだ」  いつの間にか後ろにいた優が缶を掴むと、渚の力ではそれ以上傾ける事が出来なくなってしまう。止めないで欲しかった。今だけはほおっておいて欲しかった。祈るように振り返ると、優は眉をめいいっぱい中心に寄せて唇を噛みしめていた。この人は、どこまで私の事を知っているのだろうか。 「優には、見せたくないものばかり見られてる。私の事、だめな大人だと思う?」 「思わないよ。全てに理由がある。渚さんは・・・悪くない」  その言葉の真意はわからない。知っているのかどうかも含めて。楽しい探偵ごっこになる予定だったのに、それは叶わぬ願いの様だ。逃げたかったのに。あの事からは、一生逃げて居たかった。それでも神様は立ち向かえと言うのだろうか。優は立ち向かう事を望んでいるのか。  アルコール度数の高いモノを飲んでよかった。すきっ腹に入ってきたアルコールは、急激に身体の熱を上げて考える事を阻んでくる。そう、もっと狂わせて欲しい。自分を保てるように、強く、強く抱き締めて欲しい。  私は貴方の為に、”いばら”の中に置いてきた過去を取り戻しに行こうと思う。きっと帰ってきた時に、何か貴方に繋がるものがあると信じて。
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