第2章

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 外は寒く、落ち葉も散りきってしまい木さえも寒そうにしていた。菌が蔓延しないように定期的に換気をするために青年に声をかけた。 「えっと、何君かな?」 「い、池田です」 「そう、池田くん。換気するから窓開けてもいいかな?」 「___はい」  ぽそりと呟く彼は俯いたままだ。相当体調が悪いのかもしれない。手早く窓を開けると、強い風が室内に吹き込んできて書類が室内を舞った。スローモーションのようにゆっくりと舞い上がる紙たちを、追いかけるわけでもなくただ見つめる。この紙の様に自由に飛んで行きたいと思っていた。  ひらりと舞う紙の向こうで池田青年がこちらを見ていた。眼鏡が反射して瞳までは伺えないが、綺麗な顔をしているなと思った気がする。彼の唇が微かに動くが風の音で言葉までは聞き取れない。紙が床に着地する頃には、俯いている池田青年に戻っていた。  終礼の鐘がスピーカーから聞こえると、一斉に廊下が騒がしくなる。当然の様に入ってくる女生徒の集団が紙を拾ってくれた。それまで、渚はぼおっと青年を見ていたのだ。 「何してんのなっちゃん。__あ、池田弟じゃん。授業サボるとかワルじゃん」 「・・・」  池田青年は女生徒に答える事も無く保健室を後にした。それを気にする様子も無く、女生徒たちは思い思いにくつろいでいる。 「もう、保健室はたむろう為の部屋じゃないんだよ?」 「なぁーに言ってんの、なっちゃん。ここは天国なんだよ!」 「そうそう。ストーブでぬくぬくでベッドもあって、相談聞いてくれるなっちゃんがいる。もう、さいこーっ」 「本当、なんで教室にストーブが無いのか理解出来ない。寒すぎて集中出来ないよっねー?」  うんうんと頷く生徒たちは悪い子たちではない。進学校でもないうちの高校は、程よいヤンキーと程よい普通の生徒たちで平和だった。ヤンキーと言っても喧嘩はしないマイルドヤンキーというやつだ。害は無い。  その平和な日常が崩れさってしまう事は、その時の渚にはわかっていなかった。変な言いがかりは時間が解決するかと思いきや、渚の養護教諭生活を脅かす黒い黒い渦となりすぐそこまで迫っていた。  あの時逃げて居なければ、何か変わっていたのだろうか。
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