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窓の外から声がした。強いあなじ風が吹き、木の葉が散っている。消え入りそうな声だった。
「貴方は・・・池田くん?」
「はい。入り口に鍵がかかっていたので・・・」
「__そうね。もう生徒と接触したらいけないと言われているの。さ、体育館に戻ってくれる?」
「・・・」
何か言いたそうに見上げてくる青年は、唇を噛みしめてこぶしを握り締めている。体育館ではどのような説明がされたのだろうか。今ではマイクの音も聞こえていない。ただカサカサと乾いた風の音がしていた。
「さ、行ってくれる?」
「___はい」
青年は背中を向けて歩いて行った。意外に広い背中をしていたと、そう思う。
何もかも失ってしまった私は、家からあまり出る事も無く引きこもっていた。小さな田舎町で噂が伝わるのは早く、尾ひれ背びれを付け大げさに淫らに広がっていった。全ての人に見られている気がした。だから、地元でもないあの町から逃げるように引っ越した。
人生のどん底で、人間不信にもなっていた。お酒に逃げていた。そんな時でも人恋しくなるもので、孤独が怖くなってしまいカウンターがある居酒屋に行ってみた。それがくまさんたちとの出会い。不健康な身体を見て抱き締めてくれたりなさんとの出会い。
あの一年間は忘れる事にしている。楽しかった、嬉しかった事はたくさんあったけれど記憶に強く残るのは辛かったキオク。
私の思い出の中に優の手がかりは無かった。
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