第2章

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 隣に本人が居るのに、聞く勇気が無い。  事故か何かかと思っていた。それが自殺だったとは。それよりも”池田優”が隣にいる”優”と同一人物だとは限らない。視線を優に向けると、優は黙ってパソコンの画面を見つめていた。その瞳には、この書き込み達がどう映っているのだろうか。 「正解だよ」 「え?」 「池田優で正解。俺、自分で名前名乗ったじゃん。だから、苗字も言える。・・・先に言えよって思った?ははっ」  くしゃりと目尻に皺を寄せて笑う優は、楽しくて笑っているようにはとても、見えない。どこまでのラインを聞いていいのかわからないけれど、自分が死んだ理由なんて話したい人なんていないはず。喉の奥がきゅっと閉まる感じがして、じわりと唾液が湧いた。 「___池田って「さ、寝ようか」  今日はもう終わりだと無言で告げる優に、小さく頷く。  疲弊した脳は休息を求めて眠気を誘ってくる。  ベッドに潜り込む姿を確認して電気を消す優はまるでお母さんである。窓の外に消えていく優を横目で見るのも日課となっていた。  ”池田”という苗字は珍しい名前ではない。記憶の中の池田くんと優が同一人物なはずがない。池田くんは暗いイメージしか無く、それ以上でも以下でもない。最後に会った生徒だったから覚えていただけで、接点など無いし会話もあの程度。顔もいつも前髪で覆われていて、どんな顔だったかもわからない。一方、優は明るくかっこいい。恐らくクラスでも人気者で、よくモテただろう。  それに私がいた頃の池田くんであれば今頃大学生だ。優は西高の制服のまま。つまりは、私が辞めた後に西高に入ったのが池田優だ。関係ない。  明日は休みだから本当は寝坊したいけれど行くところがある。さっきの書き込みにあった【新聞で見た】を調べるために、図書館に行こうと思う。西高があるのは違う町だが同じ県内だ。県内の事なら小さな事件でもおそらく載っているはず。  渚は小さな期待と不安を胸に目を閉じた。
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