第2章

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「お待たせしました」  向かってくる女性の両手には新聞紙の束が乗せられている。見た目のわりに軽い音を立ててテーブルに着地したそれを引き寄せながらお礼を言うと、仕事を終えた女性は満足げにカウンターへと戻っていった。  日付を確認すると上の方から古い順になっていて、気遣いを感じた。がさりと乾いた音を立てながら広げた新聞紙は、普段見慣れていない為どこから見たら良いのかわからなかった。取敢えず右上から順番に確認していく他無かった。 「___これは」  日付は二月十七日の新聞で、下の方に短く書かれていた記事に目を通す。 ――――― ◇ニュース◇ 男性自殺未遂で意識不明  十六日午後十一時四十分ごろ、××市西区のマンションで大学生(二十一歳)が飛び降り自殺を図り、頭部を強く打ち意識不明。  ××西区警察が原因を調べている。 ――――― 「大学生?自殺未遂?・・・意識不明」  しっかりと内容が入ってくるように読み上げるが、違う気がする。場所は合ってるけれど、違う。隣にいる優は何も言わずに新聞に視線を落としていた。  再びがさがさと音を立てながら残りの分も確認するが、【酒酔い運転容疑者逮捕】とか明らかに違う年齢の方の悲報ばかりで当てはまるものが無い。もう一度全ての新聞を確認し終えたのは、図書館に来てから二時間が経過した頃だった。  じんじんと疲労を訴える目頭を押さえると、頭がくしゃりと撫でられた。視線を向けると優が八重歯を見せて微笑んでくれていた。このまま新聞を確認したところで知りたい事は見つからないように思えて、新聞を返して図書館を後にした。 「あーーーーっ、なんか肩こった」  図書館から出て背伸びをする優は、嬉しそうに太陽を見上げた。お喋りな優にとっては、図書館は苦痛で仕方が無かったのだろう。時刻はお昼になろうとしていた。  大手チェーン店のカフェのテラス席を選んで座った。普段ならクーラーの入った店内を選ぶが、今は”普段”と呼べる状況ではない。どうしても甘いものが飲みたくてアイスラテのMサイズを選んだ。  広い歩道の向こうは二車線の道路が通っていて、車が忙しなく行き交っている。黙って見つめていると、過去に囚われている自分がアホらしく感じた。私も流れに乗って進むべきだと。 「ねえ、優。私、決めた」
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