第2章

16/16
前へ
/98ページ
次へ
 きょとんとした優がこちらを見ている。決意が揺らいでしまう前に一息で告げた。 「行こうか、西高」 「__大丈夫なの?」  背もたれに深く腰掛けていた優が、ゆっくりと姿勢を起こしながら眉を寄せた。養護教諭時代の事を話してはいないが、やっぱり優はあのことを知っている様子だ。やっぱり相当な悪評だったのであろう。当時いなかった生徒である優も、知っている程に。 「これ以上ここで調べたってわからないもの。見つけて欲しいんでしょう?」  口角を上げて優を見ると、探るような視線を感じてアイスコーヒーを飲むぞぶりをしておいた。 「___うん」 「じゃあ、行こう。くまさんに固まった休みを取れないか相談してみるよ」 「ありがとう。__渚さん、どうして俺なんかの為に、その「脅されてるから仕方なくよ。ただ、それだけ」 「・・・」  ははっと悪そうに笑って見せても、勘のいい優には気付かれてしまうだろうか。  優と出会えて日々が花咲くように美しく鮮やかに、瑞々しくなった。不摂生は止めたし、休みが来るのも楽しみになっていた。その理由の全てに”優”という存在がいる。うっとおしく思ったのは出会ったその時だけで、直ぐに渚の心に染み入ってきた存在。何時しか優を知りたいと思うようになったし、”会いたい”と思う様にもなった。 『探すってどういう事?遺体を探して欲しいって事?』 『その答えはYESでもあるしNOでもある』  今更引っかかるあの時の言葉と、先程見つけた記事。 【男性自殺未遂で意識不明】  もしも、あの記事が優の事だとするならば。自殺未遂で意識不明という事は、死んではいないという事。どんな状況かはわからないけれど、生きているという事。そうだとしたら、本物の優に会えるのかもしれない。  目の前に座る優を見ると、ストローを手にアイスコーヒーに浮かんだ氷を突いて遊んでいる。今の職場にも半年前までは高校生だった大学生たちが働いている。その子たちは可愛いなと思うがこんな気持ちにはならない。優は、凄く大人びている。それは生きている時からなのか、死んでからそうなったのかは渚には知りえない事。  胸の中で成長していく優への気持ちに、どうすべきかはわからない。でも、西高に行く事で何かが変わる気がした。良い方向にも、その逆にも。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加