第3章

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「渚さんって車の運転出来るんだね」  助手席に座った優が、尊敬するような眼差しでこちらを見ていた。確かに、ペーパードライバー歴は四年になる。今住んでいるところは田舎ではないため、車よりも電車を利用したほうが楽だし、何より安全だった。今回は電車では無く車で行く事にしたのは、長い移動時間を優と喋らずにいるなんて勿体無いと思ったからだ。実に邪な考えだと思う。  西高に行くと決めてから、一週間が経っていた。くまさんたちは深くは聞かずに二つ返事でOKをくれた。貰った休みは一週間。宴会予約の無い週で良かった。これから、消したはずの過去を見に行く。一人なら今後一生いく事は無かったと思うし、誘われたって行かなかったと思う。ただ、優の事を知りたくて決別した地へと舞い戻る。 「出来るよ。大人だもん。着くまで二時間くらいだけど、どこか寄りたいところある?」 「そうだな、道の駅でご当地ソフトクリーム食べたい」 「___構わないけど、優、食べられる?」  渚は必死に運転中のため、優が今どんな表情をしているかわからない。だから、急に会話のテンポが悪くなって不安になる。 「そうだね」  急に太ももに添えられた手の平に、ハンドルを握る手に力が入る。何処で覚えたのかわからない手つきでやんわりと撫でられると、ワルイコトをしている気分になった。 「俺一人じゃ食べきれないから、一つを一緒に食べようか」  耳元で囁くように呟かれて、どんな反応をしたらいいかわからなくなっていた。  優はたまに大人の雰囲気を醸し出しながら触れてくる。そのたびに心臓が跳ね上がり、寿命が短くなっている気がする。私をからかっているのかわからない。優はどんな想いで、私に触れてきているのだろうか。 「そうだね、そうしよっか」  なるだけ平静に答えた。養護教諭だった頃に男子生徒にからかわれた時は、もっと上手に返せていた気がする。引きこもってしまった間にコミュニケーション能力が低下したのか、それとも相手が優だからなのか答えは出ているけれど・・・。 「どうしたの?」 「なんでもないよ。ナビに行きたいとこ入れてくれる?」 「わあー、こき使うね」 「それはこっちのセリフ」  普段通りの会話が心地いい。このままで居たい気持ちと、ホンモノに会いたい気持ちがざわざわとせめぎ合っていた。
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