第3章

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 道の駅は平日で車が少なく、空き気味の駐車場は渚にとっては好都合だった。慣れないバック駐車を澄ました顔でしてみせた。周りの自然に合わせるように木で作られたログハウスの道の駅で、地元の人だか観光客かわからない年配の人たちが楽しそうに会話している。田舎あるあるの、何処の誰かもわからない人たちが仲良く話しているのかと思うと、自然と頬が緩んでいた。 「おおぉ。初めて来た」 「私も。あ・・・展望台あ「行こう!」  ウキウキした様子の優に手を引かれて登った展望台は決して綺麗ではない。両側には森が茂り、虫の多そうなそこから見下ろした先には見慣れない街並みが広がっていた。 「もうすぐだね」  隣で静かに告げた優は少し寂しそうに見えた。マイナスイオンを乗せた心地よい風が吹いており、じんわりと額に滲み出た汗が渇いていくのを感じる。優が見つめる先に視線を移すと、懐かしき学校が見えていた。不思議な気持ちだった。 「何か、見つかると思う?」 「それを俺に聞くの?」 「優以外の誰に聞いたらいいの?」 「ははっ、そうだね。__見つかると思うよ」 「・・・うん」  ”見つかる”という事は、優との生活の終わりという事。寂しく思う気持ちと、見つけてからも一緒にいられるかもしれないという小さな希望。その結末はそうなってからしかわからないから、逃げるよりも進む道を選ぼうと思う。  木の手すりに置いていた手に圧力を感じて目線を落とすと、優の大きな手が重ねられていた。筋張った男の手に見えるそれは不健康な色をしている。また再びこの手に色が付きますように。血が巡り、暖かな手の平に戻りますように。 「約束のソフトクリーム食べに行こうか?」 「俺、チョコレートがいい」 「何言ってるの。ご当地の味に決まってるじゃない」  後ろから聞こえる声は文句を言っているが笑っているようだ。繋がれた手に温もりは無いけれど、私の熱が伝わってしまわないか心配だった。私だけ体温が上がり、鼓動を速めている。  これこそ立派な片想いであり、叶わない恋だと思う。伝えるつもりは無い。優を困らせてしまうから。こんなに距離が近いのは、人気者の優の無意識な人たらしの賜物で。まんまとハマってしまった。人気者に恋した事がある多くの女性は、きっと伝える事なく終わらせた人が殆どだろう。そんな気持ち。
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