第1章

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「そんな驚かないでよ。俺の事、弟みたいに思っていいよ。だから、お風呂上りにバスタオル一枚で出てきてもいいっ、たい!なんでぶつんだよ!」 「・・・ガキが調子にのるんじゃない」 「ちえっ」  優は後頭部に腕を回して、少し前を歩いていた。少しだけ緩く履かれたズボンも、筋張った腕もまるで生きているみたいだった。まだ本気で信じたわけではないけれど、全てが冗談だと思えるわけでもなかった。  そこの角を曲がると見えるアパートが我が家だ。四階建ての最上階はエレベーターも無く、人気がないようだった。ギリギリまで粘って借りた我が家は、わりと気に入っている。  トントンと階段を登りながら振り返ると、優が楽しそうな笑顔で見返してきた。その笑顔に答えることはせずに、小さくため息を吐いてから残りの階段を登った。階段ホールに響く靴の音は一人分だけだった。 「おおおぉ!女の子の・・・へ、や?」 「何よ、その反応」 「いや、こう、もっとピンクのフリフリを・・・。渚さん、味気ないよ」 「これが大人の女の部屋よ」  優は一瞬でキラキラとした笑顔を引っ込めて、不満そうな顔をして見せた。見渡す部屋は必要最低限の家具が並び、縫いぐるみだとか可愛いインテリアの類は置いて無い。確かに、若い男の子の理想を壊してしまったかもしれない。 「___飲み物は?」 「お気遣いありがとうございます。・・・でも、気持ちだけでいいや」 「そう」  優は座らずに物珍しそうに部屋を見渡していた。幽霊は壁とかも通り抜けるというイメージがあるが、クローゼットの中まで見ることは出来るのだろうか。だんだんと全てを見られているような気持ちになり恥ずかしくなってしまう。 「ねえ・・・その、さっき言ってた事教えてくれる?」 「さっきの事?」 「そう、お願いがあるって」 「あぁ、その事だね。___そう、大切なお願いがあるんだ」  無邪気だった優の笑顔が真剣なものに変わっていた。こちらを見る瞳が先程までと同一人物だとは思えないくらい。重い雰囲気にごくりと自然に喉が鳴った。 「俺を探して欲しいんだ」
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